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『世界樹の迷宮』シリーズ雑記。HPのごたごたも
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ついったでの突然人気投票・一位を獲得したマリアン(Dガン子)のおはなしです。

 ※D本のネタバレを含みます


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<フェイ(Dショタパラ→5デコドラ)の銃の修業時代のお話です>



「よくそう、おいそれと人の人生を決めますね、貴女は」
 いつだったか、アレックスという腐れ縁の取引相手に、そう言われたことがあった。
 文脈を思い出す。奴とは長い付き合いで、お互い不機嫌になるような言い争いも掃いて捨てるほどしたことがある。その中のひとつ、別の取引相手が私を裏切り、私の商社に巨額の損失を肩代わりさせたときのはずだった。
 私の本職は商人だ。そう他者から認識され、自身もそう認識している。が、一般の商人と違い私には、身を守るにしては余りある力が備わっている。幼少期に傭兵として育てられた私は、居を置くアスラーガの冒険者と肩を並べることが出来る程度には、銃の扱いに長けている。
 損失を与えた相手を撃ち殺したのもまた、その銃であった。
―――アレックスはどこぞの国の王族だが、王宮育ちではないと聞いている。その割に潔癖なところがあり、この件に関しても大いに眉をひそめた。私とて血を見るような事態は避けたかったが、もう事は最悪の状況に至っており、そのまま野放しにすれば私や部下たちだけでなく、アスラーガにまで危害が及ぶと判断したのだ。だが、せめてと己の手でつけた決着について、私と同じくらい被害をこうむったアレックスに、まさか非難されるとは思わなかった。
 私たちは議論をした。最終的に、他に打開策を見つけられなかったアレックスが、死という覆せぬ結論に嘆息することで折り合いをみた。
 そうして奴から出た一言が、冒頭の言葉である。
―――要するに、負け惜しみというやつだ。

 一度でも何かの組織のトップに立った人間なら、その責任と、決断の重みを知らぬ者はいないだろう。
 私の判断で不利益を被った―――ときには、命すら失った―――者から受ける怨嗟、非難、復讐。
 そういったものから目を逸らさず、真っ向から―――叩き伏せる。
 それが私のやり方だ。

「マリアン、俺に銃を教えてくれないか」
 元奴隷―――フェイもまたその一人だ。
 独り立ちしてからは冒険者として世界を回っているらしいが、たまにアスラーガに顔を出すことがある。妙に真剣な顔で「話がある」と言うものだから、わざわざ時間を取ってやったら。
「寝言なら寝て言え」
「言われると思ったけど、俺は本気だ」
「なら、なおさらタチが悪いな。一度死んできたらどうだ?」
 街の北部には、それに適した迷宮群がある。それらを踏破した経験を持つフェイは、私の嫌味を理解した様子で眉をひそめた。
「少しくらいまともに聞いてくれたっていいだろ」
「お前の話で、まともに取り合ってロクな話だった試しがない」
「ひでえ……」
 俯き肩を落とすフェイだったが―――どうせこちらが話を聞くまで、何日も居座る気なのは分かっている。前回、北東の街の融資話を持ってきたときもそうだった。魔物が住み着く森の開墾が目的で、どういう経緯かそこの地主に頼み込まれたらしい。最終的に、未開の森で発見した全ての採取物の物流を、私が取り仕切ることで出資を了承した。
 だいたい、用事がある時にしか来ないのだ、コイツは。実のある話だと言うが、そんなド田舎を開拓するほど私は暇ではない。
 今回だってそうだ。―――銃を教えろだと?
 押し黙り、見つめる視線に気が付いたのか、顔を上げたフェイは口を開いた。
「剣に代わる武器が欲しい」
 そんなところだろうと思っていた。用意していた通り、私も答える。
「お前には盾があるだろう」
「ああ。……あんたが見抜いてくれた俺の“武器”だ。だけど、盾だけじゃ旅ではやっていけない」
「剣は上達の見込みがないが、銃なら取り扱えるだろうと?」
 鼻で笑った私に、フェイはまた苦い顔で応じる。
「安直にそう考えたわけじゃない。盾を使うなら、もっと効率的に動けるような……遠距離で相手を牽制できるような武器がいいと思ったんだ」
 フェイは銃を学ぶどころか、扱ったことがない。彼の出身のことを詳しく聞いたわけではないが、直感で私はそう思った。今フェイが挙げた提案ひとつでも、叩き潰せるような反論はいくつも湧いていた。それらをそのまま口にするのは容易い。
 だが。
―――私は嘆息した。
「……話にならんな」
 一蹴するだけで留め、さっさと部屋から出ていけと追い払う。
―――分かっている。
 納得するまで。いや、納得してもなお、フェイは頑固に食い下がってくる。己の主張を曲げずにぶつかってくる。こういう奴が、私は一番苦手だ。何も考えずにただぶつかってくるだけのバカならまだいいが、手を変え品を変え、ときには他の誰かの助言を聞き入れて改良しながら、そのくせ根幹だけは変えずに、私を説得する要素を増しながらぶつかってくる。
―――結局折れるのは、私の方なのだ。


 冒険者と同じように、銃士にも職業組合がある。銃という特殊な技術を安全に普及させるため、この技術を正しく扱い、継承することは厳しく統率されてきた。私の銃は、母から受け継いだものだが、私の若さもあって、継承することを考えたことすらなかった。フェイにはまず、銃技術はそうした面倒くさい伝統に守られてきたものなのだと、説明するところから始まった。銃士が弟子を取るにも、組合への登録が必要だということも。案の定、バカの楽天的な頭では、弟子にしてくれる、という部分しか理解できなかったようだが。学識の試験に通らせるのに、実技の倍は時間がかかった。
 銃の技術は、一朝一夕で身に着くものではない。他ならぬ私の仕事を中断させ、時間を割かせて教師をさせるのだから、相当額の金を請求した。さすがにこれには目を剥いていたが、今まで冒険者として稼いだ金を全額注ぎこみ、足りない分は再び奴隷でも何でもやると誓約書を書いてきた。タダ働きの住み込み奴隷が一匹増えたところで、私には何の利もないが、執事が力仕事が助かると言っていたので許した。

「一年だ」
 銃士には礼服がある―――それに袖を通したフェイを目前に立ち、私は告げた。
「一年で、私の要求する水準まで到達しろ。さもなくば……」
「さもなくば?」
 呆けた風に聞き返すバカの額に、銃口を突きつける。
 さすがに、フェイの顔が引きつった。―――が、それも一瞬のことで、すぐに真剣な表情に戻る。
 揺るぎのない金瞳が、真っ直ぐ私に向けられている。
 私は続けた。
「殺す。中途半端な技術を、外部に漏らされては困るからな」
「……分かった」
 銃口を向けられたまま、フェイは大きく頷いた。その目に迷いはない。
「……冒険者登録はそのままだな?」
「? ああ」
 ここはアスラーガ北部の不思議のダンジョン地帯、第一と番を振られた迷宮の中だ。銃の訓練を行うには、他人を巻き込まない―――というより、巻き込んでも不利益を与えない場所という意味では最適だ。
 不思議そうな顔をするフェイに、私は笑ってやった。
「ということは、脳をフッ飛ばされても記憶は飛ばないわけだ」
 私の言葉に、フェイは口角を歪ませる。
 銃口はまだ、彼の鼻先だ。
「まさか……」
「銃のありとあらゆる要素を一年で身体に叩き込め。性能、破壊力、危険性、可能性―――そして恐怖をな」
 私は引き金に指を絡めると、そのまま発砲した。


 不思議のダンジョン内では人は死なない。
 正確には―――死ぬが、すぐに蘇生が可能だ。ダンジョン内でもそうだし、ダンジョンの外に出ると息を吹き返す。どれだけ致命傷を負っていても、生存可能なギリギリのところまで、回復するようなつくりになっている。迷宮専門の学者がどれだけ調べても、その本質は未だに解明されていない。だから、不思議のダンジョンと呼ばれている。
 銃の訓練はとかく、危険を伴う。かといって、私は最初の訓練に、ほとんど不思議のダンジョンは持ちいなかった。理由は単純で、危険に慣れられては困るからだ。フェイはこの迷宮における“死なない”ことには慣れている。銃が暴発すれば、銃士自身の死を招きかねないという初歩の初歩を常に意識させるには、ダンジョンでの訓練は不適だった。
 不思議のダンジョンを使い始めたのは、動く的相手の発砲訓練を開始してからだ。ダンジョンには本物の魔物が現われる。盾と剣を装備すれば慣れた相手でも、銃以外に身を守る術を持たない状態では、あっという間に体力と気力が尽きる。
「俺、盾と一緒に使いたいんだけど……」
 地面に這いつくばって、泣き言を抜かすフェイの頭を踏みつけて、私は答えた。
「ひとつの武器もまともに扱えない奴が、ふたつの取り回しが出来ると思うか? 次同じことを口にしたら、今度は肺に穴を開けるぞ」
「せ、せめて即死できるところにしてください……」
 腿を撃ち抜いた時は出血死まで数分を要した。肺はもう少し苦しいかもしれない。


 私がフェイに訓練をしていることを聞きつけたらしい、アレックスがわざわざアスラーガを訪ねてきた。
「フェイも変わり者ですねえ。なんでまた、散々苛められると分かってマリアンのところに弟子入りなんか?」
 明け透けにも程がある。面白がるように尋ねたアレックスに、私たちの食事に同席した(給仕として)フェイは「うーん」と虚空を見上げた。
「身近に信頼できる銃士が、マリアンだけだったんだよな」
「僕に相談してくれたら、いくらでも紹介してあげましたよ。こんな優しさの欠片もない人以外の」
「撃ち殺されたいのか貴様」
 ホラァ、とわざとらしく肩を竦めるアレックスの一方で、フェイはけろりとしたものだ。
「でも、俺が直接人となりを知っている相手が良かったから。銃が危ないものだってのは分かってたし。マリアンなら、正確な取り扱いを教えてくれると思ったから」
「ふうん。……ですって、マリアン」
 黙っていれば、焦れたようにアレックスが続けた。
「今の話、何か思うところはないんですか?」
「ない」
「ええー」
 白いテーブルクロスに頬を付け、アレックスは唸った。
「―――それだけ信頼されてるってことですよ。マリアンの方から、何かないんですか、何か」
「何かとは」
「マリアンは……」
 フェイが口を挟む。
「何で、俺の訓練に付き合ってくれてるんだ?」
「……お前が死ぬほどしつこく付きまとったからだろうが」
 溜息を吐く。


 フェイはかつて私が命を救い、買い取った奴隷だった。
 時期にして一年足らず。少年期のほんの通過点に過ぎない。だが、その一年は彼の進む道を大きく変えた。私はただ、フェイが己が道を選び取り、進んでいくさまを見ていただけだった。
 私の手を離れ、再びフェイは私のもとに戻ってきた。曰く、今度は弟子にしてくれと言う。私の技術を得て、それを活用して生きていきたいと言う―――要するに、道を進むための、杖にしたいのだと。
 フェイは知らないだろう―――杖を授ける者の葛藤を。険しく先の見えない道を進むため、頼りとなる杖の礎を造る者の重みを。
 知らないからこそ、信頼という言葉で全てを片付けることが出来る。
―――私は最後の試練のことを考えていた。


「あー、疲れた」
 河のほとりで、フェイはどかりと地面に腰を下ろす。
 勝手に休憩すれば即銃弾が飛ぶ。この休憩は私から言い出したものだ。
 アスラーガと、迷宮群のある森を隔てて流れる大河の水面を、夕日が赤く照らし出している。
 大河と森を乗り越え、山脈の向こうに見えるのは、琥珀色の世界樹だ。
 目を細めていた私に、フェイの低い声が降る。
「……今日で一年だ」
 私は溜息を吐いた。
「そうだな」
―――振り返りざま、銃を抜く。
 動きに比して、膨れ上がる殺気。
 完全に身体を捻り、フェイと向き合ったときには、銃口は―――もうひとつあった。
 すなわち、フェイの持つ銃の。
 座しているフェイの姿勢から、それは私の心臓を正しく向いていた。一方、私の銃口はフェイの利き腕の肩口に。
 このまま発砲すれば、どちらが勝つかは明白だ。
 睨みあったまま、私は口を開く。
「……最初に私が言ったことは、身についてはいるようだな」
「“銃のありとあらゆる要素を一年で身体に叩き込め”ってやつか」
 殺気に反応して、反射的に構えを取ったのだろう。フェイの表情は、わずかに戸惑いが浮かんでいた。
 その戸惑いを察して、私は鼻で笑ってやる。
「なら、最後の試練は言うまでもないか」
「ここは、不思議のダンジョンじゃないぞ」
 狼狽が露わになるにつれ、私は不快に眉をひそめてみせた。
「なら、お前はむざむざここで、私に殺されるのか?」
 フェイはぐっと息を呑む。相変わらず、正直な奴だと思う。
―――私もかつて、同じように母から訓練を受けた。不思議のダンジョンなどなかった旅のキャラバンで、生きるか死ぬかの境を彷徨ったこともある。母は金のために人を殺す傭兵だった。そして、かつての私もそう生きるよう、訓練をされた。
 己の道を突き進むとき。犠牲となるものは、その意志が強ければ強いほど大きくなっていく。その逆も然りだ。犠牲が大きいほどに、選んだものを貫く覚悟は深く、強固なものとなっていく。
「……だとしても」
 地面を握りしめ、フェイは私を敢然と見据えた。
「俺に、あんたを殺せるわけないだろ……」
 フェイの銃が力なく降りる。
 私はその顎を蹴り上げると、痛みにひっくり返るフェイの腹を踏みつけた。
「ふん。こんなところか」
「あんたな……いってェ……」
「殺気に反応したな? ……その感覚を忘れるな。そのまま引き金を引けば、お前は私を殺せていた」
「だからっ―――」
 足を退け、私は銃をホルスターに格納する。
「理屈でも感情でもない。ただの、本能だ。……剣や盾と同じで、銃もまた武器として、お前の一部になったということだ」
「あ……」
 起き上がり、握ったままの己の銃をまじまじと眺めるフェイに、冷ややかに告げた。
「調子に乗るな。お前ごときに私のいのちをやるわけなかろう」
「……まあ、多分そういうことだろうと思ったけどさ……」
「よく言う」
 呆れながら、帰路に着こうと踵を返す。が、一向にフェイが身支度を整える気配がない。そのうち、何か言いたげな視線に鬱陶しくなってくる。
「……何だ。まだ何かあるのか」
「あんたが。……結局、なんで俺に銃を教えてくれたのか。まだ聞いてない」
「お前のしつこさに折れただけだ」
 いつもの答えを返せば、フェイはゆっくりと立ち上がった。
 意志の灯った金瞳が、私を見返している。
「金を融資したり、人を融通したり……そういうことなら。今までと同じように、あんたに利がある事なら、力を貸してくれるのも分かる。でも、今回はただの俺の我儘だ。あんたには何の得もない。むしろ技術を教えるんだから、あんたにとっては不利だろう。俺が払った対価なんて……俺の覚悟を問う程度のものだ」
 さすがのバカも、直近の一年で少しは賢くなったようだ。
 私は口を開く。淡々と言葉は出た。
「私の答えについて、予想があるのか。予想があって正解が知りたいのか、それとも見当もつかないのか。どちらだ」
「予想は……一応あるけど」
 黙って促せば、フェイは目を逸らして、ぼそぼそと答えた。
「お、俺が頼りなさすぎるから、鍛えてくれた、とか……?」
「半分ほどは、そうだな」
 自分で言ったくせに、フェイはじとりと私を睨んだ。
「もう半分は?」
「……元々、お前は私の奴隷だった」
 フェイは目を見開いた。
―――何を驚くことがあろうか。私とお前の関係は、主従から始まったのだ。
 それが不本意のものだったとしても。少なくとも、主人である私にとって、フェイは私の所有物だった。
「お前は独り立ちをしたつもりかもしれんが、それでもお前の人生の一部は、私のものだった」
 他人の人生を預かるという責任と、それに下す決断の重み。
―――私はそれらの結果が生んだすべてから、目を逸らさないと決めている。
 目を逸らさず、向かってくるものには全力で応じ、叩き伏せる。
 それが私のやり方だ。
「選んだ道を進むための杖なら、授けて当然だ」
 私の答えに、フェイはしばらく沈黙していた。
 向かい合うフェイは出会った当時よりも成長し、背も私を追い越した。少年ではなく、青年となったのにも関わらず、幼稚な表情から読み取れることはいくつもある。
 やがてフェイは口を開いた。
「……それに、俺が少しでも返せることはないのか」
「ない」
 断言し、私はフェイに一歩近づいた。
 泥と血に薄汚れた礼服の心臓のあたりに、拳を突きつける。
「その重みを背負って、お前も生きていけ」


 それからまた一年ほどが経ち、旅に出ていたフェイが、ふとアスラーガに顔を見せた。
 旅について、モズが羨ましがっていたから、勝手についていくかもしれないと、奴隷の一人が懸念していた。まあ、うるさい食い扶持が減るだけなので、私は困らないが。
 フェイはしばらく遠くに行くと言う。どれだけかかるか分からない、過酷な旅になるだろうと。執事や奴隷どもは律儀に心配していた。旅に出るというのに、あれやこれやを持たされて、フェイは辟易していた。
「くたびれた……」
 客間に、ノックもせずにふらふらとフェイが入ってくる。日はとうに暮れ、諸事情あって部屋の半分が屋外の客間は肌寒い。部屋の切れ目から数歩先の崖から覗く、大河と森と山脈、そして薄ぼんやりと輝く世界樹から、風が吹き込んでいる。
 私が座す長椅子の背に、フェイが腕を乗せてくる。
「……何をしに来たんだ、お前は」
「みんなの顔を見に来たんだけど、一応。旅に出る前に」
 呼気から酒が臭う。私は読んでいた本を畳むと、人差し指でフェイを呼んだ。不思議そうにしながら、椅子の正面にフェイが回る。
―――用がないときに、フェイがアスラーガに来ることはない。
 本人が言うとおり“みんなの顔を見に来た”のだろう。随分珍しいことだ。
 大きく漠然とした不安を、道の先に予見しているのだろう。
「来い」
「え……でぇっ!」
 腕を引っ張れば、フェイが倒れ込んでくる。
 その頭を胸に抱えてやりながら、ぽんぽんと叩いた。
「大丈夫だ」
「っ……」
 息を呑むフェイ。
―――前にもこんなことがあったな、と想起するのはフェイが奴隷だった頃だ。
 アスラーガの危機に立ち向かわねばならないと、己を追い込んだ彼も、今と同じような顔をしていた。
 その道の先に何があるのか。私は知らないし、知ろうとも思わない。
 私はただ―――走って行く背中を見ているだけだ。
―――それにしても。
 私は、完全に沈黙した黒い頭を眺めつつ、眉をひそめる。
―――アレックスはああ言うが、私は相当、自分の持ち物(元を含む)には甘いと思うのだが。
 優しさの欠片もないだの、心外もいいところだ。
 視線の先では、私の葛藤やら憂鬱やらは露ほども知らぬと言いたげに、世界樹が琥珀の枝葉を揺らした。
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