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『世界樹の迷宮』シリーズ雑記。HPのごたごたも
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というわけで第2弾。詳細についてはこちらの記事をごらんください。

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 ふと意識が浮上するのを感じて、ナナセは目を開けた。薄暗い視界の端に、ゆらりと光るものを見つけてぱちぱちと目を瞬かせる。そうしてから、自分が白くて大きな、そして温かいものに凭れかかっているのを確認して、ナナセは自分の今の状況を把握した。
 時刻を確かめようと帽子の隙間から空を見上げて――それが無駄であることを思い出す。果てなく天を目指して伸びているように見える世界樹。ナナセ達カラサのメンバーが野営の陣を敷いているのはその第四階層だ。頭上を覆い尽くす薄紅の天幕のせいで、例えその上に空が広がっていたとしてもそれを目にすることは叶わない。ひらひらと落ちてくる花弁は、時間の流れを教えてはくれない。
視線を空から下ろす。顔を横に向ければ、人一人分空けた所に同ミヅキが眠っている。ナナセに背を向けたような格好で、小さくて茶色い後頭部が白い枕と対照的だった。腕に嵌めた時計を見れば、時刻はあと十数分で午前三時になろうとするところで、ナナセはそれで自分が目覚めた理由をなんとなく察した。
「あれ、ナナセ。起きたんだ?」
ナナセの身じろぎに気付いたのだろう。小さな声が聞こえた。顔を上げれば、明るい色で燃えるたき火と、その傍で火の番をしているイチカの姿が目に入る。
「もうちょっとしたら起こそうと思ってたんだー。ちょっと早いけどいいや。代わって?」
イチカの言葉にナナセは体を起こす。野宿にしては寝心地の良いベッドは、ナナセの動きにぴくりと反応したが、そのままゆるゆると落ち着いた。
頻繁に野営をするギルドではないけれど、必要な場合は勿論きっちりこなさなければならない。比較的モンスターの出現しない場所を選びはするものの、何が起こるか分からない樹海の中で全員で眠るわけにもいかないので、数時間ごとの交代制で火の番と周囲への警戒を担当する。特に深夜から明け方にかけての時間をナナセが担当することが多いのは、メンバー中最も仕事が正確だからで、要するにつまり――一番居眠りが少ないのだ。
火の傍に座ると、イチカが体を伸ばしながら話す。眠っているメンバーのことを考えてのことだろう、いつもより相当声が小さい。
「んぁー。よかったー。もうちょっとで寝るとこだった。野営久々だけど、あんまり好きじゃないなあ。朝になったらさっさと見つけて帰ろーね」
言い終わらないうちに、イチカはくあ、と欠伸を漏らした。
いつものように鋼の棘魚亭で受けたクエスト。アイテム採集のそれに手間取ってしまったのが今カラサの面々がこうして過ごしている理由だ。ターゲットのモンスターがなかなか目当てのアイテムを落としてくれないがために、全て集め終わる前に夜になってしまった。空の見えない樹海の中では昼夜の区別は曖昧だが、それでも体は正しく夜に休息を訴える。メンバーで相談した結果、一度街に戻るよりもこのまま樹海に留まって、早朝から残りのアイテムを求めて動き出す方が効率的だということになって野営と相成ったというのが現在の状況だった。
「今んとこ変な気配もないし、火も大丈夫だよー」
消えたらトキヤにつけてもらえばいいけどねー、となんでもないことのようにイチカが呟く。ミヅキや先程までのナナセとは反対の場所でキリサメに凭れて眠っているトキヤが聞けば、嫌そうな顔をして絶対に火を絶やすなと厳命しそうな台詞だった。幸か不幸か、キリサメの向こう側に覗く金髪はぴくりとも動かなかったが。
 イチカがもう一度欠伸をした。とろりとした目には涙が滲んでいる。
「うー。もう限界。あとよろしくねナナセ。これミヅキが作っといてくれた飲み物。んじゃおやすみー」
火の傍に置かれた簡素な容器を指差しながらそう言って、イチカはのそのそとした動きでキリサメの傍まで行くと、その白い毛並みを満足そうに一撫でしてからことりと体を預ける。数分もしないうちに、すうすうという寝息がナナセの耳に聞こえてきた。
 ナナセはしばらくじっと火を眺めていたが、やがてイチカの言った容器に手を伸ばす。蓋を開けるとほのかに甘い香りがした。道具を入れた袋の中から小さなカップを取り出してそれに注ぐ。焚き火の中から小さな枝を引っ張り出して、そのちろちろと燃える火の上にカップを翳す。中身が少し温まったのを確認して、枝を火の中に戻した。
 カップを両手で包むように持って香りを嗅ぐ。温まった液体は、先程より甘く香っている。まず一口啜り、それから二口、三口と飲んでいくと、カップの中身はすぐになくなった。
 ナナセはほう、と息をついた。
 年若いカラサのメディックが作るドリンクはどれも美味しかったが、中でもこの飲み物は人気が高い。栄養価が高く、それでいてしつこくない甘さで飲みやすいのが理由だ。ナナセも例に漏れず気に入っていたから、ミヅキも分かった上で用意したのだろう。
ナナセはミヅキの方を見た。相変わらず体を横にして眠っている。その隣ではイチカが足を投げ出していて、その向こうにはトキヤの金髪が覗いている。
ナナセは少しの間そちらを眺めていた。それから手元に視線を落とす。空のカップを見て考えるような素振りを見せたが、すぐに再び飲み物の入った容器に手を伸ばした。中を覗き、あと三杯分は残っているのを確認して、カップに飲み物を注いで温めた。
 時計は午前三時を回っている。時折爆ぜる焚き火の他に、物音はない。仲間たちは皆眠っている。
ナナセは一口こくりとカップの中身を飲み込んで、もう一度ほう、と息をついた。
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夏コミおつかれさまでした!&ありがとうございました!! HOME 夏コミお品書き
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