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『世界樹の迷宮』シリーズ雑記。HPのごたごたも
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◆経緯とこのお話について

オフライン活動するにあたり(2011/10頃)、お試し短編本を作ろう
→しかし長編本開始と同時に、登場しきってない自キャラでやりたくない
→相棒ギルドを借りて本を出す(相棒ギルド本:HPのオフラインページ参照)
→相棒の妄想が活発化する
→もうすぐ私(ほふ)の誕生日だし、君が君のギルドで何か書いてや
→えっ(でも短編書いて送ってくれる)
→送ってくれたやつブログにあげるね
→えっ
という完全に内輪なネタでございます。

◆二編いただいたうちの、一編目です。
 登場人物は以下の通り(相棒ギルド本と同じです)

ギルド名「カラサ」

so3b.gifイチカ/ソド/♀
「カラサ」の問題児。つか野性児。

pa3b_.gifシオン/パラ/♀
「カラサ」のリーダー。苦労性。

me3a.gifミヅキ/メディ/♀
「カラサ」の良心。敬語っ子。

al4a.gifトキヤ/ケミ/♂
「カラサ」の黒一点。不幸体質。

re3b.gifナナセ/レン/♀
「カラサ」の問題児その2。無口。

pe4a.gifキリサメ/ペット
「カラサ」の癒し担当。相棒ギルド本での主人公。

つづきから本編でございます。
ちょいとケミ×ソド風味なのでご注意。

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「あー、つっかれた!」
大声と共に宿の扉を開いたイチカは、そのまま玄関フロアに備えられたソファーにダイブした。ソファーはぼす、と音を立ててイチカの体を受け止める。
「イチカさん、いつものことですけどお行儀悪いですよー」
「いーじゃん、他に誰もいないんだからさー」
イチカに続いて入ってきたミヅキがそう注意するが、イチカはごろごろとソファーに転がったまま気にしない。ちなみに、ここまでがイチカが宿に戻ってくる度に交わされる「いつもの会話」だ。確かに流石のイチカも他の人間が座っているソファーにダイブはしないので、そういう意味で被害者は今のところ出ていないのだが。
「んー、ふかふかー。でもキリサメには負けるかなー」
そんなことを言いながらも、にへーっと笑いながらイチカはソファーから離れない。腰に提げていた大剣は何時の間にやらソファーの傍に立て掛けられ、足に装着している防具を寝転がりながら外そうとしている。せめて起き上がればいいのに横着だなあ、とミヅキは思った。
「ソファーとキリサメちゃんを比べちゃダメですよ。あの毛並と比べちゃソファーが可哀想です――あれ、イチカさん」
「うん?」
急に名前を呼ばれて、イチカは足にかけていた手を止めた。ミヅキはイチカに近付いて、ああやっぱりと呟いた。
「イチカさん、髪の毛に木の枝が絡まってますよ」
「枝?」
「はい。ほらここ」
指差された場所に手を伸ばすと、確かに固い感触が手に当たった。ミヅキの言うように木の枝だろう。さっき世界樹の中でモンスターと戦った時にでも引っかけたに違いない。
 イチカはそのまま枝を引っ張った。が、上手く外れない。
「いたたた」
起き上がって両手で引っ張るも、ややこしく絡まっているようでなかなか取れない。
「あーもうめんどくさい!」
堪え性の無いイチカは、腰に提げたままだった短剣――戦うためのものではなく、細かい作業をするときに使うものだ――を引っ張り出した。そして、どうするのだろうと見ているミヅキの前で、枝の絡まっている辺りの髪を掴んでざっくりとぞんざいに切り取った。
「うん、これでよし!」
あーすっきりした! と満足げなイチカに対して、ミヅキは呆気にとられた顔をしている。
「あー、ほんとにすごい絡まってたなあ……ってどしたのミヅキ」
きょとんとした顔を向けてくるイチカに、ミヅキは、
「な、にを、やってるんですかイチカさんっ!」
「はへ?」
急に大声を上げられて、イチカはわけが分からず間抜けな声を出す。それを気にせずミヅキはさらに続ける。
「そんな、いきなり髪切っちゃうなんて何考えてるんですか!」
「いやいきなりじゃなくて手じゃ無理だったからなんだけど」
そう答えながら、イチカは切り取ったばかりの髪をくしゃくしゃと丸めて、フロアの隅に置かれている屑籠に向かって放り投げる。木の枝がいい重石代わりになったのか、それは見事に屑籠の中に収まった。
「びんごー」
「びんごーじゃないです! そんなに自分の髪を乱暴に扱わないで下さいよ! イチカさんだって女の子でしょー!」
「それとこれに何の関係があるのさー?」
本気で分かっていないイチカは首を傾げる。イチカにしてみれば、別に人の髪を切ったわけでもないのになんで怒られているのだろう、というようなものである。
「帰ってくるなり何をそんなに騒いでいるんだ、お前達は」
そんな二人に、呆れたような声がかけられる。ミヅキが振り向けば、二階から降りてくるシオンの姿があった。
「シオンさん! ただいま帰りました」
「やっほーシオン、ただいまー」
「おかえり。イチカ、寝転がるな……とはもう言わないからせめて装備は外せ。ソファーはお前だけのものじゃない。汚すな…両・手・で、やれ」
片手でブーツを脱ごうとするイチカに素早くそう告げてから、シオンはミヅキに向き直り「あとの奴らはどうした」と尋ねた。
「今外でキリサメちゃん洗ってます。だいぶ汚れちゃったので。頑張ったんですよー今日」
今日の目的は探索でなく、メンバーの――主にキリサメの訓練で、シオンは人数の関係で留守番だった。部屋で武器や防具の手入れをしていたのだろう、ゆったりした普段着を纏っている。
「だいぶレベルも上がりましたし!」
「そうか、それは良いことだ。で、お前らは何を騒いでいた?」
「あっ! そうなんですよ聞いてくださいシオンさん!」
ミヅキはつい先程の会話をシオンに伝えた。
「それはまた横着な……」
呆れた声を出すシオン。ミヅキは「ひどいですよね!」と続ける。
「女の子なんだから髪の毛は大事にしなきゃ…それにせっかく綺麗な色なのに」
「そうだな、身だしなみは大事だ。まったくイチカは常日頃から横着が過ぎて……ん? 綺麗?」
今の話の問題はそこなんだろうか、とシオンは思った。というか、何が綺麗だって?
「そうですよ、イチカさんの髪の毛、すごく綺麗な赤色じゃないですか」
疑問符のついたシオンの言葉に、ミヅキは頷いてそう答える。
「綺麗……なあ」
シオンはイチカの髪をまじまじと見る。世界樹の第2階層に広がる森のような色。燃えるような赤毛、という言葉がぴったり当てはまるそれは、確かに綺麗といえば綺麗かもしれない……が。
「いくら綺麗な色でも、これではな」
「うん?」
シオンはそう言って呆れたように眉をひそめる。状況がよく分かっていないらしいイチカは間の抜けた声を出してそれに答えた。
 イチカの――ミヅキの主張によれば綺麗な色をした――髪は、何の手入れもされていないのが丸分かりの状態をしている。あちこち跳ねて落ち着きのない様子は、まるでイチカの内面をそのまま表したようにも見えた。
「小鳥か何かを頭に飼っていてもおかしくないレベルだな」
「あたしが拾ってきたのはキリサメだけだよー?」
「分かっている。物の例えだ阿呆」
間延びした返答をシオンはすっぱりと断ち切った。
「まったく、どうしたらここまでほったらかしに出来るんだ? ナナセは綺麗に伸ばしているのに」
シオンが引き合いに出したのは、常にイチカと二人して敵陣に突っ込んでいく、レンジャーのナナセだ。弓を得物とする彼女が何故前衛にいるのかはよく分からないが、とりあえずそれは脇に置いておくことにして――とにかく彼女も長い髪をしているが、それはイチカと違いそれなりに手入れされているのだ。前衛で激しく動くのは二人とも変わらないのに何故、とシオンは思わずにいられない。
「確かにナナセさんはまっすぐ伸ばしてますよね」
シオンの言葉にミヅキも頷く。ちなみにシオン自身は髪を短く切っているし、ミヅキも、あともう一人――ここにいないアルケミストのトキヤも髪は短い。
「イチカさんも少しは髪を労わってあげてくださいよ」
ミヅキはイチカに向き直って言う。イチカは面倒くさそうにその言葉を受け止めた。
「えー」
「えーじゃないです! あ、そうだ!」
目をきらきらさせて、名案を思い付いたというように手を叩いたミヅキに、イチカと、隣で聞いていたシオンも目を瞬かせる。
「私今櫛持ってるんでちょっと梳かしてもいいですか? それならイチカさんは座ってるだけでいいですから」
「「くし?」」
聞きなれない言葉に、二人して首を傾げた。
「ブラシじゃないのか?」
普段自分が使う道具を思い出しながらシオンが言うと、ミヅキはこくりと頷いた。
「はい、櫛です。ブラシと一緒で髪を梳かす道具なんですよ。アララギのチハヤちゃんに貰ったんです。彼女の故郷の名産品らしくて」
「……お前もよく分からん交友関係を持っているな」
「そうですか? あ、これです」
ミヅキが鞄をごそごそと探って取り出してみせた物を見て、シオンはまず「華奢だな」と思った。薄い板状のものに、細かい棒状のものがびっしり埋め込まれているようにシオンには見える。材質は何かの木のようだ。
「これが櫛です。一枚の板で作るんだそうですよ。すごいですよね。使い方はブラシと一緒で、このまま髪を梳かすんです。イチカさん、ちょっとじっとしててくださいねー」
ミヅキはそう説明して、ソファーを迂回してイチカの後ろに立つ。見たことのない櫛とやらを思わずまじまじと眺めていたシオンだったが、それがイチカの髪に通されようとするとあわてて声をかけた。
「待てミヅキ、やめておけ。ぞれじゃ無理だ。絶対こいつの頭に使ったら負ける、櫛が」
止められたミヅキはえ? という顔でシオンを見返した。
「私、いつもこれ使ってますよ?」
「お前の髪だから大丈夫なんだよ」
ミヅキの肩のあたりで揃えられた髪は、さらさらとしていて、年頃の娘らしく整えられている。髪質もあるのだろうが、日頃ちゃんと手入れをしているから、櫛もしっかり通るのだろう。
「イチカのこの髪じゃ、櫛を使うにしてもまずブラシでどうにかしないと駄目だろうな。あちこち絡まって面倒くさそうだが」
「そうですか……じゃあ部屋からブラシ持ってきますね。ちょっと待っててください。イチカさん、どこか行っちゃダメですよ」
「んー、分かった」
ソファーにべったり張り付いたままイチカは頷いた。髪を整えられることがどうというよりも、単に動くのが面倒くさいのかもしれない。
「いや、ミヅキ? 別にここでしなくても部屋に戻ってすればいいのでは……」
対照的にそう声を上げたシオンだったが、その言葉を聞く前にミヅキは部屋へと向かう階段の向こうに消えてしまった。
「……ここは公共の場所なんだが」
「ま、いーんじゃないの。他のギルドもいないし」
「このお気楽娘め」
誰に原因があると思っているのか。シオンはため息をついた。
「なんだ、シオン降りてきてたのか」
そんな時、玄関の扉が開いて、シオンに言葉がかけられた。声のした方を見れば、短い金髪と長い金髪が扉をくぐってくるところだった。長い金髪の隣には、大きな獣がゆっくりと同道している。
「ああ、おかえり。トキヤにナナセ、それにキリサメ」
シオンはそれぞれの名前を呼んだ。短い髪の男――アルケミストのトキヤはおう、と片手を上げてそれに応える。もう一人、ナナセの方は何も言わずにシオンをじっと見た。そしてその隣にいる獣、ホワイトタイガーのキリサメは、シオンの言葉にがう、と鳴き声で反応した。
「キリサメ!」
ソファーのイチカが名前を呼ぶと、キリサメは嬉しそうにイチカの傍に寄っていく。近付いてきたキリサメを、イチカはぎゅうと抱き締める。
「キリサメー! 頑張ったね! 今日!」
「がうー!」
「んー、ほんとふかふかー!」
ごろごろとじゃれあう様子を見て、トキヤがぼそりと言う。
「ペットが二匹」
「あんな手のかかるペットはいらん」
どちらを指しているかは明白だった。
「で、今日は何か変わったことは?」
シオンがトキヤに尋ねる。シオンが探索に出ないときは、トキヤがパーティーの様子を把握することになっている。年齢でいえばナナセの方がトキヤより上だったが、前衛で突っ込んでいく上にほとんど口を利かない彼女にはこの役割は向かない。このギルドでは、頭を使うのは基本的に二人の仕事だ。
「ああ、特には。キリサメも順調にレベルが上がったし、前衛二人はいつも通り、たまにぶっ倒れかけながら戦ってた」
「本当にいつも通りだな……」
シオンの言葉に含まれた呆れに、トキヤは軽く肩をすくめる――今更だ、という意味を込めて。
「しかしレベル上げが楽で助かった。学習装置システムだったりパーティーの先頭にしてすぐに後退しなきゃならなかったりすると面倒だからな」
「別のゲームのネタはやめろ」
そう釘を刺していると、ぱたぱたと足音がして、階段からミヅキが降りてきた。
「トキヤさん、キリサメちゃんのお世話お疲れ様です」
片手にヘアブラシを持ったミヅキは、トキヤの姿を認めてそう話しかけた。ちなみに、ナナセはシオンとトキヤが話をしている間に既に部屋に戻っている。ある意味一番マイペースだ。
「おう。お前もお疲れ。で、それどうすんだ?」
ヘアブラシを指して尋ねるトキヤに、ミヅキとシオンが事のあらましを説明した。トキヤはへえ、と感心したような呆れたような声を上げる。
「このざんばら髪をなあ。直るのか?」
未だにキリサメと戯れているイチカに目を遣って、トキヤは聞いた。
「どうだかな。まあ、ミヅキがやりだがってるんだからやればいいだろう」
「せっかく綺麗な髪なんですから、綺麗にしなきゃ勿体ないですもん」
「綺麗、ねえ……」
「ま、ミヅキの気持ちも分からんでもないがな」
シオンは肩をすくめる。年頃の娘は何かと髪の毛をいじりたがるものだ。それが自分のものでも、他人のものでも。
張り切るミヅキの声を聞きながら、トキヤはじっとイチカに視線を注いだ。
「……こいつもちゃんとすればそれなりなんだろうになあ」
「…は?」
「え?」
ぼそりと零れた言葉に、シオンとミヅキが揃ってトキヤの顔をまじまじと見る。
「へ? …あ、いや、何でもない気にすんな。そうだ、俺ちょっと出かけてくる。シオン、ついでに何か要るもんがあれば買ってくるぞ」
慌てたように言うトキヤに、
「え? ああ、そうだな、アムリタが切れかけている。それと、確か糸のストックはさっき帰ってくるのに使ったので最後だったろう。その二つぐらいか。頼んでいいのか?」
「ああ、ついでだ。んじゃ、行ってくる」
シオンの言葉に素早く頷いて、トキヤはさっき入ってきた扉を慌ただしく出て行った。
「……どうしたんでしょう、トキヤさん。お使いを自分で引き受けるなんて珍しいですね」
「まあ、そうだな」
シオンはそれだけ答えて、
「ほら、ミヅキ、イチカの髪をどうにかするんだろう。さっさとしないと奴はソファで寝始めるぞ」
とミヅキを促した。
「あ、ほんとだ。イチカさん、寝ないで下さいよ! キリサメちゃんと遊んでてもいいからちょっとだけじっとしてて下さい」
本来の目的に集中し始めたミヅキと、今のところおとなしくされるがままになっているイチカを見ながら、シオンは「……あれが、これを、なあ?」と小さな声で呟いた。

 

 結局、なんやかんやでミヅキがイチカの髪をいじり終えたのはそれから三十分ほど経ってからだった。日頃ろくに手入れをしていない髪はあちこちで絡まっていて、特に毛先の辺りが酷かった。結び目が出来ているのを見たときは、シオンもため息をついた。ブラシを入れるだけで髪を抜いてしまわないように気を遣う始末だったが、それでもミヅキを驚かせたのは、見た目の酷さの割に枝毛が少なかったことだった。
「もっと傷んでると思ったんですけどね。絡まった跡がついてかなりうねったりはしてますけど、すごくきしんだりするところもないし。あと切れ毛も少ないんですよね。元々の髪質がいいんでしょうか」
さらりと、けれどしっかりとした重みを感じる赤い髪に手を泳がせながら、不思議そうに――若干羨ましそうにミヅキが言う。その言葉にシオンが返したのは、「野生児め」という一言だった。
「うん、やっぱりイチカさんの髪って綺麗ですよ。もうちょっと気を遣えばいいのに……」
念願の櫛でイチカの髪を梳きながら言うミヅキに、イチカは面倒くさそうな顔をする。
「うえー」
そんな声を上げながらも、今まで動かずにいたのは、少しくらいはこっちの方がいいと思っているからなのだろうとシオンは思う。大半は動くのが面倒なだけなんだろうが。
「よし、これでおっけーです! あ、そうだ。せっかく綺麗にしたんだから……」
最後の一櫛を入れ終えて満足げな声を上げたミヅキが、ふと自分の鞄の中を探った。そうして取り出したのは、少し長めの、明るい黄色をしたリボンだ。ミヅキはイチカの髪をまとめて掬って、適当なところをそのリボンで器用に巻いてきゅ、と留めた。
「うん、完成!」
いたく満足げな声で、ミヅキはイチカの拘束を解いた。慣れない後ろ側の感覚に首を傾げながら手を伸ばすイチカ。リボンの結び目に指が辿りつくと、おお、と少し驚いたような顔をした。
「こうしておいたら少しはマシだと思うんです」
にこにこと笑って言うミヅキ。イチカが首を動かすたびに梳かしたばかりの髪が柔らかく滑って、シオンは「ああ、確かにこうすれば綺麗かもしれない」とそれを見て思った。
「シオンさん、どうですか?」
「ああ、まあいいんじゃないか、それで」
「キリサメちゃん、どうです?」
ミヅキがキリサメに声をかける。ミヅキがイチカの髪をいじっている間、ソファの傍でとろとろとまどろんでいたキリサメは、ミヅキの声にぱちりと目を開いた。ミヅキを見て、それからイチカを見る。
「がう」
一度そう声を上げて、イチカの腹の辺りにぐりぐりと頭を押し付ける。
「キリサメも良い感じだってさー。でも退屈だったって。……一応あんがとミヅキ」
「いーえー、私がやりたかったんです。こめんなさいキリサメちゃん。次はキリサメちゃんがイチカさんにブラッシングしてもらって下さいね」
「がうー」
再びじゃれあい始める一人と一匹。その微笑ましい光景に、シオンは首を傾げる。
「なんでそこまで分かる」
やはりこいつは野生児だ。内心で断定していると、玄関の扉が開く音がした。振り向くと紙袋を片手に抱えたトキヤが立っている。
「買ってきたぜ、アムリタと糸」
「助かった」
「んや、ついでだしな。それで、交易所行ったらさ、そこで仕事頼まれたんだよ。なんか取ってきて欲しいもんが」
あるんだと、とトキヤが言い終わるか終わらないうちに、ソファーから飛び起きたのは――勿論イチカだ。
「お仕事!? やったー! 行くよキリサメ!」
「がうッ」
ぞんざいに放ってあった装備一式を引っ掴んで、ついでに目を輝かせて傍を走り抜ける一人と一頭に、トキヤは驚いたように目を見開いた。が、すぐに慌てて声を荒らげる。
「おいイチカ! まだ内容なんも言ってねえぞ! 樹海の入口で待っとけ! いいな!?」
「あ、私行って止めときますね! イチカさん! キリサメちゃーん!」
後を追うように走って行ったミヅキを見ながら、トキヤはため息をついた。
「あんの鉄砲女……なんも考えずにキリサメ連れて行きやがった」
せっかく水浴びさせて綺麗にしたのに、とぼやく。シオンは肩をすくめた。
「まあ、イチカにやらせればいいだろう。ブラッシングしてやる約束をしたらしいしな。それと、今度は私が行くからお前は休んでいていいぞ」
「いいのか? お前装備は」
「手入れは終わっている。次は私が面倒を見るさ」
そう言いながらトキヤから袋を受け取ろうと手を伸ばす。その手に袋を渡しながら、トキヤは簡単に依頼の内容を説明した。それによれば、目的の品は第四階層にあるらしい。
「結構上の方だな。まあどうにかなるか」
内容を把握したシオンが呟く。
「んじゃ、まあ頼んだぜ。ナナセも連れてくんだろ」
「ああ。支度ついでに呼ぶさ」
「俺は部屋にいるわ」
そう言って先に二階へ上がるトキヤに、シオンは思い出したように声をかけた。
「ああ、そういえばトキヤ」
「んあ?」
階段の途中で振り返ったトキヤに、シオンは軽く笑みを浮かべてこう尋ねた。
「ちゃんとした髪になったあいつは、それなりだったか?」
トキヤはぽかん、と目を丸くしたが、質問の意味を理解すると、
「は、おま、何言ってんだ? 馬鹿言ってねえでさっさとあいつら追っかけろよ!」
早口になってそう言いながら階段を駆け上がっていった。
「……言ってみるものだな」
顔を赤らめこそしなかったが、声が見事に上ずっていた。滅多に言わないからかいの言葉が思ったより効いたのを見て、シオンはしみじみと息をついた。それから、自分もこうしてはいられないと、紙袋の中身を確認して、足早に自分の部屋に戻って行った。

 

(「……シオン」「何だ?」「イチカの髪」「ああ、ミヅキがな。いじって楽しんでたんだ」「……トキヤ、喜んだ?」「……知っていたのかお前」「何となく」「そうか」「……」「止めも勧めもせんさ。それでいいんだろう」「……ん」)

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