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『世界樹の迷宮』シリーズ雑記。HPのごたごたも
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*とりとめのない、クッククローギルドの日常風景を切り取ったお話です


登場人物は3人、無印時代の採集レンジャー・ブルームの話。

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「いーいーかーらー聞けってー」
「うっぜえなオッサン、俺は明日も探索なんだよ!」
「あらあら、どうしたの?」
「聞いてくれよ、女将さん! レオン君がまた俺をオッサン扱いするんだ!」
「そっちかよ! ……あー、酔っ払いが酔っ払ってるだけだから、気にしないでくれ」
「? そう」
「くそう、結婚なんかするもんじゃねえぜ、レオン君」
「俺してねえけど」
「しなくて正解だ! ……嫁さんひでーよ。俺がちょっと趣味にも仕事にも全力を注ぎすぎちまう性格だからって、家を追い出さなくてもいいと思わないか?」
「……平日仕事はとにかく、休日樹海探索っつう名の趣味に没頭してる奴は、家庭をないがしろにしてるとみなされても仕方ねーとは思うぞ」
「でもこっちの稼ぎだってちゃんと家に入れてるんだぜ?」
「……うん」
「今までは笑顔で“気を付けてね、五体満足で帰ってこないと許さないわよ☆”だったのが」
「きめえ」
「今日は突然鬼の形相で、“どのツラ提げて帰ってきたの? 許さないわよ★”だぜ……」
「んー……」
「何、その適当かつ、どうでも良さそうな反応は」
「まあ適当かつ、どうでも良いからな」
「ひどい。一緒に原因考えるくらい、してくれたっていいじゃないか」
「めんどくせえ」
「おい雇用主! 労働条件の改善要求を訴えるぞー!」
「ンなこと言われても……ん?」
「なんだい」
「や、いい。……他に男が出来たとか?」
「俺の嫁さんに限ってそんなわけあるかー!! あんなにデキた嫁はいない、いないぞ」
「そーかい」
「あ、俺と嫁さんの馴れ初め、聞きたいって?」
「言ってねえ」
「あれは、俺がまだ教師ではなく学生の立場だった頃……」
「うぜえー」
「冒険者っつうほど冒険はしてなかったけど。今よりは樹海に潜る頻度は高かった頃だ。当時は探索ブームも下火になっていて、採集という名のアルバイトもあまり儲からなくてな。でも働かなきゃ学費は払えないし、ほとほと困ってたんだよ」
「……」
「そんな俺の、既に行きつけになってたここで、彼女はよく歌ってた。肌や目の色からこの辺り出身じゃないのは分かってたし、言い寄る男もガラの良い連中じゃないのにヘラヘラ受け答えするような娘だった。まあよく酔っ払いに絡まれてたよ。女将さんが適当にあしらってたけど」
「……それで?」
「それで……いつもここにいるのが気になって、話しかけてみたことがあった。他にやりたいことはないのか? ずっとここにいる目的は? ……俺の問いに、彼女はこう答えた。“私は歌いたいから、ここにいるだけよ”」
「……」
「何だそりゃって思うだろ? 俺も思ったよ。“何だそりゃ、歌えなくなったらどうするんだ。場所とか、金とか、必要なものはすぐなくなっちまうだろ”って訊いてやった。答えは“女将さんが許してくれるまでここで歌う、誰も歌を聴いてくれなくなったら別のところへ行く。歌なんてどこでも歌えるから、お金は生きていける分さえあればいい、なくなればその分働くだけ”。
「……思えば俺も、自分の事で焦ってたんだろうな。学費が払えなくなりゃ夢だった教師にもなれない。かといって働き過ぎれば勉強に支障が出る。どっちつかずになるのが一番怖かったのさ。だから彼女の答えにも、最初はイライラしてたまらなかったよ。そんな気楽に、いつまで続けていられるか分からない生活をして、いつかしっぺ返しを食らうぞってな。
「でもさ。彼女の歌を聴いていて……そんなことないかもって思うようになってった。気持ちが楽になるっていうか……そんな効果があったんだよ、彼女の歌う歌には。……俺の夢は教師になって一人でも多くの子供に勉強を教えることだったけど、それは学校を出て、正規の教師にならなくても出来ることだ。それこそ世界中を回って、そんな制度がないところで教師になればいい。どうにかして教科書を買って、少しでも時間を作れば。冒険者をしながらの勉強だってやろうと思えば出来る」
「……」
「考え、甘いよな。……けど、そう思えるようになったことで気持ちはずっと楽になった。そうしたら……なんと冒険者のコネで、家庭教師の仕事なんかも来るようになってさ。……まあ俺は冒険者らしく運がついてたんだよ。もちろんちゃんと努力もしたぜ? で、その後もちょくちょく、彼女に会って話を聞いてもらったり、彼女の話を聞いたりしてた。そのうちに俺は勉強しながら、無事に学校を出るまでの学費を払い切り、教師になることが出来たんだ」
「良かったな」
「で。……めでたく彼女にプロポーズしたってわけさ。ドラマチックだろ?」
「そうか?」
「ふふ、懐かしい話をしてるわね」
「女将さんにも世話になったからねー」
「最近はうちに来ないわね、奥さん。元気?」
「教会で歌を教えるようになったから、そっちが忙しいみたいだよ。ま、そのうち顔を出すように言っておく……って……」
「まずは家に入れてもらえるようになってからねえ」
「そうなんだよ~」
「話が戻るわけか」
「うおー」
「ねえ。話を聞いていて思ったんだけど……今日に限ってってことは、何か今日が特別な日だった、とかじゃないかしら」
「特別な日ィ? 誕生日とかか? よく分かんねーな」
「あなたたち男性にはよく分からないかもしれなくても、女性にとって記念日というのは大事なものなのよ」
「そういうもんか……ブルーム?」
「顔色が真っ青ね」
「……った」
「え?」
「きねんび、だった」
「ほらァ、やっぱり」
「何の?」
「結婚……」
「けっ……結婚記念日!?」
「あーあ」
「あーあーあー何で忘れてたんだっていうか俺の馬鹿っていうかこれはまずいよなこれは」
「……まあ、まだ今日が終わったわけじゃねーんだし、間に合うんじゃねえの」
「つったって、記念日なのに何も用意してないし……」
「……そーいや今日のあがり代」
「えっ」
「そこに置いてある道具袋の中に、売ろうと思ってた全く使ってねーアクセサリがあるから、好きなの選んで持ってけよ」
「……いいの?」
「安モンしかないから、保証はしねーぞ」
「ありがとう!」
「あと」
「?」
「あんたが話し始める前から、言おうかどうか迷ってたんだが」
「何だい。遠慮しなくていいよ」 
「ドアの外に小っせーのが二つ、大きいのが一つ。入ろうかどうか迷ってる感じの知ってる気配が―――」
「……」
「……」
「……行っちゃったわ」
「行ったな、風の如く」
「あなたやっぱり、全くもって薄情じゃないと思うわよ」
「俺は雇用主らしいからな。責任ってのがあんだよ責任ってのが」
「じゃ、ちゃんと被雇用者の幸せを守ってあげてね」
「うるせ」
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