vol.16
某月某日
本日、クッククローに新しく仲間が加わりました。ダークハンターのライと、カースメイカーのカリンナです。
ライは不法行為を行っていたギルドに身を寄せていた少年です。少し素行の悪いところや調子のいいところはありますが、根は正直で素直ですから、十分更生できると思います。
カリンナはキタザキ先生のお知り合いが預かっている子供で、カースメイカーという呪い師の一族の少女なのだそうです。僕たちもはっきりとその力を見たわけではないですが、確かに彼女からは底知れぬ空気を感じることがあります。
二人とも、僕やアリルよりも年下なので、後輩といったところでしょうか。まだ樹海には慣れていないので、徐々に探索に連れて行ってあげようと思います。
vol.17
某月某日
予想だにしていなかったことが、樹海ではしばしば起こります。
ヴァルハラ・ギルドで死傷者が出ました。死亡が三名、重傷が一名です。数字にしてしまうと淡白なものですが……やりきれない。
僕が冒険者となって、早いもので九ヶ月ほどが過ぎました。その間、樹海で命を落とした冒険者たちも数え切れないほどいます。……僕たちが、その遺体を発見したことも、あります。
ヴァルハラが挑んでいたのは樹海の最深部でした。特に“そうなってしまう”可能性は高かったといえます。僕らだってそうです。第三階層で蟻に襲われたときも、行方不明になったレオンとアリルが五体満足で帰ってこられたのは奇跡のようなことなのです。
……僕個人は、さほどヴァルハラの人たちと親しかったわけではありません。それでも、僕たちと同じ速度で樹海の最深部、第四階層に挑んでいたギルドがこのようなことになってしまったのは、残念でなりません。
そして執政院はこの事件を受けて、ある任務を発令する予定でいるそうです。
それは元々執政院の長であるヴィズル氏が強く主張していた指令らしいですが……情報室の人たちによると、消極的反対を、ヴィズル氏が押し切った形で可決されたのだそうです。
一体どのような任務なのか……そしてそれを、僕たちクッククローは引き受けることになるのでしょうか?
vol.18
某月某日
今日、初めて人を斬りました。
(何かを書こうとして、ナイフで字を削った跡がある)
vol.19
某月某日
僕は何のために、世界樹の迷宮に潜っているのでしょう?
……名誉のため、己の力量の証明のため。実家の権威に頼らない、誇りが僕には欲しかった?
いや、そんなものは建前でしかない。僕は実家から逃げたかった。つまらないしがらみから逃れたくて、エトリアの街に来たんだ。騎士団の籍を抜いて退路を絶つこともせず、本当にただ逃げてきただけで。
そして今、僕は冒険者からも逃げたくてたまらない。
人を殺すことがこんなに恐ろしいことだとは思わなかったなんて、ただの言いわけだ。
騎士団に戻ることも、僕には出来る。そう、今度はそれを逃げ道にしようとしているんだ。けど、僕が人殺しである事実はどこに行っても消えない。騎士であるかぎり、僕はいずれまた人を殺すことになるんだろう。
それが恐ろしくてたまらない。
結局僕は、自分のことだけしか考えていない。
街のこと、騎士団のこと、家族のこと、仲間のこと―――そんなこと、どうだって良かったんだ。
あまつさえ僕を気遣ってくれたレオンにすら八つ当たりして。
僕は最低だ。
vol.20
某月某日
つまるところ、レオンは全部分かっていたんでしょう。
何か、吹っ切れたような気がしました。彼が許してくれたことよりも、軽蔑しないでいてくれたことよりも。レオンも僕と同じだったんだということを知って、安心したというのが大きいのかもしれません。
これからも僕は人殺しです。けどそれは、同じ罪を背負った人たちがいるから耐えられる。モリビトに向けられる敵意や殺意を受け止めて、戦うことが出来る。
いいえ、受け止めてなどいない、目を背けているだけなのかもしれません。けれどそれでいいんだと言ってくれた人がいる、そのことが僕にとって一番重要だったんでしょう。
僕は一人じゃない。
もう少しだけ、縋っても許される。
……ああ、強くなりたいです、もっと。
ここにきてようやく目標が見えてきた気がします。
僕はもっと強くなりたい。
レオンはそういう意味で、僕の目標です。
……ああなりたいとは思いませんが。