vol.11
某月某日
樹海の恐怖、というものを、改めて思い知りました。
第二階層までを前例の無い速さで踏破した、驕りがあったのかもしれません。
……キディーズや、僕達と同じ任務を受けた他のギルドにも依頼しました。
けれど、レオンもアリルは行方不明のままです。
無事でいてくれることを、祈るばかりです。
……レオン、貴方の言葉を、信じています
vol.12
某月某日
今日、レオンたちが無事に帰ってきました。
ヴァルハラ・ギルドの方々のお陰です。彼らには本当に、感謝してもしきれません。
今回のことで、僕達冒険者はとてもたくさんの人々に助けられているのだということを痛感しました。
誰かを守りたいと思っても、結局は何も出来ない自分がいるのです。
このやりきれなさは何なんでしょう。
生き急ぐばかりでは何も変わらないとは分かっていても、いつまでも未熟さを嘆くばかりではいられないのです。
アクローネとも少し話をしました。悩みは尽きません。
イーシュさんには、嫌なことはお酒を飲んで忘れるべきだと言われました。丁重にお断りしましたが……なんだか視界が、ぐらぐらします。
トマトジュースがいつもより苦く感じましたが、まさか……
vol.13
某月某日
最近、よく日記でヴァルハラ・ギルドの話をしているような気がします。
リーダーのオックスさんは、元騎士の方なのだそうです。確かに、立ち居振る舞いにそれ相応のものを感じます。
身分までは存じ上げませんが、聞く話には、ある国の伯爵相当の貴族でいらしたとか。所詮は噂の域を出ませんが、そうだとすれば、随分数奇な運命を辿っていらっしゃるのだなあ、と思います。僕も人のことは言えないかもしれませんが……。
アクローネからは、ずっと以前から結論を出せといわれたことなのに、未だに僕は答えを提示できずにいます。
誰にも相談は出来ません。ギルドの仲間にすら。ですが、新しい道が樹海で拓かれるたび、僕は新しい逃げ場を与えられているような気がします。
このまま冒険を続けたい。だけど、その選択肢を取れば、僕はもう一つの逃げ道を永遠に奪われることになります。
本当はそうすべきなのでしょう。だけど、僕はまだ選べずにいます。
冒険者を辞めるか。それとも、騎士団を辞めるか。
自分自身の名誉を得るために樹海に来たはずなのに、肩書きである騎士としての自分を失うことが僕は怖いのです。
答えは出ません。いつになれば、出せるのでしょうか……。
vol.14
某月某日
今日は驚くことがたくさんありました。いえ、樹海の中には常に驚きが満ちているのですが、まさか湖があるなんて……。
そして執政院からの任務にあった「樹海に住む謎の生物」というのは、今日会った少女のことなのでしょうか? 肌は卵のように白く、髪は森のように鮮やかな色をした、人とは似て非なる、生き物……けれど、彼女は僕達の言葉を話していました。内容は「ここから立ち去れ」といったものでしたけれども。
彼女は一体何者なのでしょう? そして「警告」とは?
予感はします。きっと、また彼女と会うことが、あるという予感は……。
そうそう。余談ですが、治療を拒否したコユキさんは、酒場の前で力尽きているところをヴァルハラの人たちに助けてもらったようです……意地になるのも何か理由があるんでしょうか? アリルが心配していたので、施薬院には是非とも足を運んで欲しいところです。
vol.15
某月某日
偶然再会したヴァルハラの方にコユキさんのことを尋ねましたが、施薬院に運ぶ前にいなくなってしまい、どこに行かれたかはご存じないということでした。
僕もアリルと一緒に探索の合間を縫ってコユキさんの行方を捜しましたが、一向に見つかりません。イーシュさんによるとエトリアにはまだ滞在しているが、相変わらずギルドには所属せず、不法探索を繰り返しているということでした。
不法侵入はいけないことですが、それ以上のコユキさんの具合が心配です。いっそのこと、クッククローに入ってもらうのもどうか、とレオンに進言したのですが、「今は時期じゃない」との返事でした。どういう意味なのでしょう?
そうそう、樹海で出会った異形の少女について、進展がありました。彼女、いえ彼女らは樹海の奥に住んでいるらしく、僕たち以外にも遭遇した冒険者は少なからずいるようです。これからは、彼らの調査が主な探索目的になるようですが……レオンの言葉が気になります。というのも、彼女たちは僕たち人間に、あまり友好的な感情を持っていないようですから。
どうか、穏便に調査が進みますように。嫌な予感は止みませんが。