vol.1
某月某日
今日、初めて世界樹の迷宮に足を踏み入れました。
目の前に広がる緑一色の光景は、まさに圧巻の一言です。
もし僕に絵心があったなら、武器を放り出して筆を握りたいと思ったほど、美しい世界でした。
しかし現実は非常に厳しいものでした。襲い来る魔物に、何度気絶させられたことか。騎士団から無断で持ち出した鎧が傷だらけになってしまいました。アクローネに叱られる事がどんどん増えていきます。
ギルドのリーダーであるレオンさんに、お前の構えはへっぴり腰すぎると言われました。へっぴり腰とはどういう意味なのでしょうか? あまり良い意味であるようには思えないので、次の機会に確認を取ろうと思います。
前途多難の初探索でしたが、僕達の旅は始まったばかりです。反省すべき点は反省し、次回はもっと皆のお役に立てるよう努力するつもりです。
vol.2
某月某日
地下二階には、f.o.e.と呼ばれる強敵が徘徊していました。唯一の樹海熟練者であるノアさん曰く、彼らとは極力戦いを避けるのが樹海で生き残る知恵なのだそうですが、レオンさんはあっさりそれを無視して突っ込んでしまいました。勿論、敵うはずもありません。今回は何とか逃げ切れましたが、f.o.e.の恐ろしさは忘れられそうにありません。
仲間の一人、アリルさんは医者の卵なのだそうです。戦いの場には慣れていないはずなのに、いつも笑顔で皆を助けてくれています。治療時の彼女の手際のよさを、僕も見習いたいものです。
そうそう“へっぴり腰”の意味ですが、レオンさん曰く「腰が引けている」ということのようです。実際に構えて見せると、腰部分の鎧のつなぎ目を叩かれました。口で指摘して欲しいところですが、確かに重心が下がり気味だったようなので改善しようと思います。しかし、暴力はいただけません。抗議したところ、逆に、叩かれるようなことをするなと言われてしまいました。あと、彼は丁寧語が嫌いであるようです。しかし僕のこの口調は癖のようなものなので、困ってしまいます。
vol.3
某月某日
新しく踏み込んだ階には、恐ろしく広い空間に、それを作り出したと思われる鋭い鎌を持った蟷螂のような魔物がいました。案の定突撃しそうになったレオンさんを四人がかりで止めましたが、蟷螂は目聡く僕達を発見し、追いかけてきました。
命からがら逃げ切ったものの、先に続く扉の前にいた二人組の冒険者に、街へ追い返されてしまいました。一体、この先には何があるのでしょう?
そうそう、レオンさんに丁寧語の話をしたところ、せめてさん付けは止すように、と言われました。……おっと、そう言う矢先に、日記で書いてしまいましたね。次回以降は、気をつけるようにします。
vol.4
某月某日
錬金術師のアイオーンさんは、普段は物静かな方ですが、ついこの間、執政院の情報室で鉢合わせした際にはいろいろなお話を聞かせて頂きました。彼は研究に必要な触媒を手に入れるためにエトリアへ来られたそうですが、今はそれ以外にもたくさん興味を惹かれるものがあって、楽しいと仰っていました。
この街に着たばかりの時に、酒場で殴られた頬の腫れもすっかり引きました。冒険者はあのような連中ばかりなのかと思っていましたが、僕のギルドにいる人たちは皆良い人ばかりです。けれど、レオン(何かを消した跡がある)の突撃癖は何とかならないのでしょうか。……今日も、狼の群れに囲まれて、酷い目に遭いました。糸があるのなら早めに言って欲しいです。確かに、レベルはかなり上がりましたけど……。
呼称の話なのですが、アリルにも“さん”は外すよう言われてしまいました。年下だから、というのが理由のようですが……そういえば、気にしたことはないのですが、皆の年齢は幾つなのでしょう?
vol.5
某月某日
地下四階の狼相手にも、いくらか余裕が出てきました。どうやら、狼たちのボスは地下五階にいるようです。
明日は、とりあえず五階まで行ってみよう、ということになりました。いきなりボスに挑むようなことは無いと思いますが、緊張してきます。
(後に追記:レオンはやはり、挑む気であったようです。案の定、ノアさんによって一蹴されていましたが。……僕たちのギルドに、ノアさんのような人がいて下さって本当に良かったと思いました。
この追記を書いている翌日にも引き続き、地下五階の探索を行う予定です。現在の様子では、明日中に一番奥に辿り着けそうなのですが、ボスと戦うことになるのでしょうか……)