忍者ブログ
『世界樹の迷宮』シリーズ雑記。HPのごたごたも
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

*とりとめのない、クッククローの日常風景を切り取ったお話です。

拍手


・演奏できるもの

 今日の探索メンバーが全員揃った。樹海に足を向けようとする面々の中、イーシュの肩をとんとんと叩く者があった。
「あのさあ」
 振り返って、さらに見下ろした先にいたライが首を捻る。
「―――あんたさ、昨日は、笛持ってなかったか?」
「笛?」
 訊き返しながらも、ああ、とイーシュは納得する。ついでに、手元のギターラをじゃらんと鳴らしてみせた。
「今日は、ギターラの気分なの」
「ふーん」
 どうも、楽器が日替わりなのが気になったらしい。ライはまだ訝しげな表情をしている。
「何種類演奏できんの?」
「うーん……楽器と分類できるものなら、大体は」
「へえ、すごいな!」
「でっしょ」
 えへん、とイーシュは胸を張る。目を輝かせたライが、じゃあさ、と言った。
「ピアノも弾けるんだよな!」
「うん」
「バグパイプも!」
「う……ん」
「尺八も!」
「た……多分」
「すっげえ!!」
 ライは感嘆の叫びを上げると、突如表情を変えた。
「じゃ、腹鼓も?」
「え?」
 見下ろした先のライは、意地悪く微笑んでいた。
「腹鼓も演奏できんだろー? な?」
 イーシュは頬が引きつるのを感じる。
 にやりと口角を上げているライは、イーシュに迫り寄ってきた。
「何でも弾けるんじゃないの? まさか出来ないなんて―――」
「……だあー! もうっ」
 イーシュは自棄になって叫ぶと、腰布に手を突っ込んだ。
「分かったよっ、やればいいんでしょ、やれば!」
「あなたたち、さっきから呼んでるのに聞いていないの?」
 帯を解いた途端、声がした先には、ノアがいた。彼女はイーシュの行動を冷ややかな目で見下ろすと、慌てて上着を引っ張り下げる彼にこう言い放った。
「樹海で下らない事をしていると、死ぬわよ」
「はい……」
 項垂れたイーシュ。
 ライは声を押し殺して笑っていたが、その後レオンに、すれ違い様に殴られていた。


・かわいい女の子

「ほい、依頼品」
 カウンターに置かれた袋の紐を解き、サクヤは中身を確認する。
「ちゃんと五つあるわ。ご苦労様」
 彼女が笑顔とともに報酬を手渡すと、レオンは不思議そうに首を捻った。
「それにしても、なんでそんなもんが五つも必要なんだ?」
 今回の依頼は、星型の種子を五つ届けて欲しい、というものだった。だが樹海の植物は地上では育たないし、料理などに使うものだとは思えない。
「お守りになるのよ。依頼人はかわいい女の子だったわ」
 その時のことを思い出してか、サクヤはくすりと笑う。
「お守りねえ……」
 虚空を見上げて呟くレオンに、彼の隣にいたアリルが説明し始める。
「星のかたちをした種で作ったお守りを身につけてると、好きな人と両想いになれるっていうおまじないだよ」
「へえ」
 どうでもよさそうに生返事をしたレオンを、アリルが睨みつける。
「何よ、その反応」
「別に何にも言ってねーだろ」
「馬鹿にしてない?」
「興味がないだけだ」
 レオンは一つ大きな欠伸をすると、店を出ていってしまった。
 その後ろ姿を見送ったアリルは、唇を尖らせる。
「本当、乙女心が分からないんだから」
「男性にそれを求めても、無駄じゃないかしら」
 やんわりとサクヤがそう言うが、アリルは首を横に振った。
「クルスくんは『うまくいくといいですね』って言ってくれたもん」
「それも……どうかと思うけれど」
 サクヤは複雑な表情でクルスを思いやる。が、アリルはそれに全く気付かぬ様子で、種子が入った袋を持ち上げた。
「―――じゃあこれ、もらっていきますね」
「ええ、どうぞ」
 “かわいい女の子”である依頼人に、サクヤは微笑んだ。


・永遠に*第五階層

「永遠なんでしょうか」
「あん?」
 レオンが眉をひそめる。
 透明な壁を通して、世界が広がっているのが見える。レオンに背を向け、クルスはそちらに近づいた。
 それは山の上から麓を見渡すほどの高さだが、目線に等しく乱立する四角いものが一体何なのか、クルスには全く分からない。いや、誰にも解りようがないだろう。
「あの人の言葉を信じるなら、今僕達がいるこの世界は、何千年も前に滅んだ世界なんですよね」
「……まあな」
「だとすれば、この世界は永遠なんでしょうか」
 ひっそりと静まり返る、切り取られた世界。
 一瞬は、永遠の死でもある。
「それは、違う」
 意外にも、否定してきたのはアイオーンだった。
「―――この世界を維持するためのシステムを構築し、支配してきたのは、ヴィズルだ。だが彼が―――いなくなった今、世界樹の迷宮を管理できる者はもういない」
「樹海自体が、滅んでいくということですか」
「恐らくは。全て、ここで得た断片的な情報の解釈に過ぎないが」
 凍った時間が動き出し、永遠は永遠でなくなるのだろうか。
 クルスは透明な壁に触れ、あらためて眼下を見遣った。
 底の見えない闇が、世界樹の巨大な枝に引き摺られている。
「この世界は、もう一度滅ぶんですね」
「そうだ。それこそ、永遠に」
 アイオーンの言葉を背に、クルスはゆっくりと目を閉じた。
PR
この記事にコメントする
color
name
subject
mail
url
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
16F更新しました HOME 「晴れ」「手」他一編
photo by 七ツ森  /  material by 素材のかけら
忍者ブログ [PR]
カレンダー
01 2025/02 03
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28
最新CM
[08/09 msk]
[05/20 オオカミ]
ブログ内検索
バーコード