*女性向けの空気がありますので、語句の意味が分からない方、苦手な方はご注意ください
*とりとめのない、クッククローの日常風景を切り取ったお話です。
*ツイッター企画で頂いたご指定より、ゲストとして某様のギルドのお二人(青ダクとショタパラ)のお話。
*登場人物(クッククロー所属のみ)
ルミネ:黒マグス♀、おとなのおねえさん
*とりとめのない、クッククローの日常風景を切り取ったお話です。
*ツイッター企画で頂いたご指定より、ゲストとして某様のギルドのお二人(青ダクとショタパラ)のお話。
*登場人物(クッククロー所属のみ)
ルミネ:黒マグス♀、おとなのおねえさん
傭兵よろしく、フリーの冒険者―――つまりはモグリだが―――を営むルミネにとって、酒場というのは重要な、依頼人との交流の場だ。それは冒険者としての仕事を求めてさまようだけでなく、彼女の貴重な息抜きの場である。
「おっ、姐さん」
目ざとくルミネの姿を見つけた常連の一人が声をかけてくる。行く手を阻むように大柄な身を寄せてきた彼に、ルミネはいつものように柔らかな笑みで応じた。
「お久しぶりねー」
「随分ぶりじゃねーか。俺はずっとここで待ってたってのによ」
下卑た笑いが見下ろしてきて、ルミネはごくわずかに眉を寄せる。
コイツに会うのが嫌で、この店から足が遠のいていたということを思い出したのだ。
案の定、髭面が無遠慮にぐいと近づいてきた。
「再会を祝して……どうだい今夜、一杯、いや一発」
「せっかくだけど遠慮しておくわー」
ずいと押し返しつつ、ルミネは男の脇の下を潜り抜けようとする。
が、それは阻まれた。掬うように胸に触れた腕に、ルミネは不快感を露わに振り返る。
「怒るわよー」
まだ辛うじて笑顔だが。
しかし、男は動じた風でもなく、むしろ楽しげに応じた。
「巫術でも使うかい? だが、こんな至近距離で薬なんか使えばあんた自身も―――おぐっ」
言葉の途中で、男の太い首が反り返った。
投げ出されるようにして、ルミネはぱっと彼から離れる。
男は羽交い絞めにされていた―――もっとも、締めているものは人の手ではなく、長くしなる鞭。
苦しそうに足掻く彼が、全ての束縛から放たれてくずおれる。その背後に立っていたのは、見覚えのある青い髪の青年―――
「ガーラくんー?」
ダークハンターの彼は、ルミネに口角を上げて応じると、つま先で男を小突いた。
「女性を誘うなら、もう少し誘い方を学んでからにするんだな」
男は悔しげに咳き込みつつも、そのまま店を飛び出していった。
それを見ていたとしか思えないタイミングで、店の亭主が近づいてくる。
「助かったぜ。あいつめ、女と見たらあの調子でな。俺も困ってたんだよ」
「ガーラくん、お久しぶりねー」
「ああ」
ルミネはこの青年と面識があった―――といっても、同業者なので狭い界隈では珍しいことでも何でもないし、機会があれば一緒に仕事をして、酒場で顔を合わせれば呑む、その程度の間柄だ。
どうやらガーラにも連れはいないらしい。二人は自然とカウンター席に移動し、話を始める。
「……あなたがこの店にいるってことは、また?」
面白がるようにルミネは彼を覗き込み、問うた。
ギルドから離れたときにしか、彼はこの酒場に姿を見せないのだ―――案の定苦い顔をした彼に、ルミネは一枚の紙を取り出した。
「それは?」
「依頼表よ。……樹海、一緒に潜ってくれる人を探してたのー。どうー?」
ガーラの腕は何度か見たことがある。信頼できる相手だからこそ、こうやって唐突にでも頼むのだ。そして―――フリーの身の上なら、大抵はのってくれるという確信があるからこそ。
だがガーラは苦笑いを、別の意味に昇華させていたらしい。
「悪いね。今は違うんだ」
「あら?」
来店を知らせる鐘が鳴る。
彼の視線が玄関に彷徨ったのを見つけて、ルミネは納得した。
「―――待ち合わせねー?」
「その通り」
肩を竦めていたずらっぽく応じる彼に、ルミネは微笑みながら依頼表を仕舞い込んだ。
「なら仕方ないわー。別の誰かにお願いしようかしらー」
「ギルド名義で良ければ受けるよ。まあ、その場合ならうちの隊のリーダーと要相談だけどな」
再び、鐘が鳴った。
ガーラの表情が、ふと柔らかいものに変わる。
「言ってたら、来たぜ」
「ガーラ」
彼の名を呼びながら店に入ってきたのは、金髪の少年。ほころんでいた幼さの残る顔が、ルミネの存在にはっと気づいて引き締まる。杓子定規に下がった頭に、ルミネは自分の頬に手を当てた。
「あらー、可愛いぼうやねー」
「えっ……」
ぱっと顔を上げた少年の肩に、ルミネは手を滑らせた。
「まだまだこれから、ってところだけど可愛い顔つきをしてるわー。今から磨けばさぞかし……」
「ちょ、っと、そのあのって、えっ!?」
ルミネの手がするする身体の稜線をなぞる。とまどい―――というより半ば恐怖の表情を浮かべる彼の胸元を手が通過した所で、少年の身体がぐっと後ろに引き戻された。
いつの間にやら、少年の背後に回っていたガーラが、澄ました顔で彼の肩に手をやっていた。
「あんまり苛めないでやってくれ。何せ、ウブなもんでね」
「ふふ」
ルミネもにっこりと笑顔で応じると、目を白黒させる少年の頬を名残惜しむように指先から離す。
そして改めて少年の目を見た。
「あなたが、リーダーさん?」
「えっ!? ……ええと、僕は―――」
「イファンだ」
代わって紹介したガーラを、戸惑うように少年―――イファンが見上げる。
ガーラの視線は揺るがず、ルミネを見ている。
ルミネもまた、微笑みを湛えたまま応じた。
「可愛いリーダーさんね」
「だろ? やんないよ」
「えっ!」
素っ頓狂な声を上げるイファンに、ガーラもルミネも目を丸くする。
「何だよ。やらないって言ったぞ?」
「いやその……っていうか何です、やるだのやらないだの、人をモノ扱いして……」
憮然とする少年に、ガーラは笑った。
「そう怒るなって。……じゃ、俺たちはこれで」
ルミネに片手を挙げるガーラに、彼女も軽く応じた。
「ええー。また会いましょうね」
「ああ。また」
生きていたら、どこかで。
そんな言葉を含んで残し、ガーラはイファンを―――慌てていたが丁寧にも、ルミネに一礼をしていってくれた―――連れだって店を出ていった。
彼らの背を見送りつつ、ルミネはカウンターに乗り出すようにして独りごつ。
「あーあ。当てられちゃったわー」
「何か言ったか?」
忙しく動き回る亭主が聞き返してくるが、何でもない、とルミネはかぶりを振る。
「そうねー、あんな可愛い子がいるなら、私もギルドに入っちゃうわねー」
「?」
不思議そうな亭主をよそに、ルミネは鈴の音のように笑った。
「おっ、姐さん」
目ざとくルミネの姿を見つけた常連の一人が声をかけてくる。行く手を阻むように大柄な身を寄せてきた彼に、ルミネはいつものように柔らかな笑みで応じた。
「お久しぶりねー」
「随分ぶりじゃねーか。俺はずっとここで待ってたってのによ」
下卑た笑いが見下ろしてきて、ルミネはごくわずかに眉を寄せる。
コイツに会うのが嫌で、この店から足が遠のいていたということを思い出したのだ。
案の定、髭面が無遠慮にぐいと近づいてきた。
「再会を祝して……どうだい今夜、一杯、いや一発」
「せっかくだけど遠慮しておくわー」
ずいと押し返しつつ、ルミネは男の脇の下を潜り抜けようとする。
が、それは阻まれた。掬うように胸に触れた腕に、ルミネは不快感を露わに振り返る。
「怒るわよー」
まだ辛うじて笑顔だが。
しかし、男は動じた風でもなく、むしろ楽しげに応じた。
「巫術でも使うかい? だが、こんな至近距離で薬なんか使えばあんた自身も―――おぐっ」
言葉の途中で、男の太い首が反り返った。
投げ出されるようにして、ルミネはぱっと彼から離れる。
男は羽交い絞めにされていた―――もっとも、締めているものは人の手ではなく、長くしなる鞭。
苦しそうに足掻く彼が、全ての束縛から放たれてくずおれる。その背後に立っていたのは、見覚えのある青い髪の青年―――
「ガーラくんー?」
ダークハンターの彼は、ルミネに口角を上げて応じると、つま先で男を小突いた。
「女性を誘うなら、もう少し誘い方を学んでからにするんだな」
男は悔しげに咳き込みつつも、そのまま店を飛び出していった。
それを見ていたとしか思えないタイミングで、店の亭主が近づいてくる。
「助かったぜ。あいつめ、女と見たらあの調子でな。俺も困ってたんだよ」
「ガーラくん、お久しぶりねー」
「ああ」
ルミネはこの青年と面識があった―――といっても、同業者なので狭い界隈では珍しいことでも何でもないし、機会があれば一緒に仕事をして、酒場で顔を合わせれば呑む、その程度の間柄だ。
どうやらガーラにも連れはいないらしい。二人は自然とカウンター席に移動し、話を始める。
「……あなたがこの店にいるってことは、また?」
面白がるようにルミネは彼を覗き込み、問うた。
ギルドから離れたときにしか、彼はこの酒場に姿を見せないのだ―――案の定苦い顔をした彼に、ルミネは一枚の紙を取り出した。
「それは?」
「依頼表よ。……樹海、一緒に潜ってくれる人を探してたのー。どうー?」
ガーラの腕は何度か見たことがある。信頼できる相手だからこそ、こうやって唐突にでも頼むのだ。そして―――フリーの身の上なら、大抵はのってくれるという確信があるからこそ。
だがガーラは苦笑いを、別の意味に昇華させていたらしい。
「悪いね。今は違うんだ」
「あら?」
来店を知らせる鐘が鳴る。
彼の視線が玄関に彷徨ったのを見つけて、ルミネは納得した。
「―――待ち合わせねー?」
「その通り」
肩を竦めていたずらっぽく応じる彼に、ルミネは微笑みながら依頼表を仕舞い込んだ。
「なら仕方ないわー。別の誰かにお願いしようかしらー」
「ギルド名義で良ければ受けるよ。まあ、その場合ならうちの隊のリーダーと要相談だけどな」
再び、鐘が鳴った。
ガーラの表情が、ふと柔らかいものに変わる。
「言ってたら、来たぜ」
「ガーラ」
彼の名を呼びながら店に入ってきたのは、金髪の少年。ほころんでいた幼さの残る顔が、ルミネの存在にはっと気づいて引き締まる。杓子定規に下がった頭に、ルミネは自分の頬に手を当てた。
「あらー、可愛いぼうやねー」
「えっ……」
ぱっと顔を上げた少年の肩に、ルミネは手を滑らせた。
「まだまだこれから、ってところだけど可愛い顔つきをしてるわー。今から磨けばさぞかし……」
「ちょ、っと、そのあのって、えっ!?」
ルミネの手がするする身体の稜線をなぞる。とまどい―――というより半ば恐怖の表情を浮かべる彼の胸元を手が通過した所で、少年の身体がぐっと後ろに引き戻された。
いつの間にやら、少年の背後に回っていたガーラが、澄ました顔で彼の肩に手をやっていた。
「あんまり苛めないでやってくれ。何せ、ウブなもんでね」
「ふふ」
ルミネもにっこりと笑顔で応じると、目を白黒させる少年の頬を名残惜しむように指先から離す。
そして改めて少年の目を見た。
「あなたが、リーダーさん?」
「えっ!? ……ええと、僕は―――」
「イファンだ」
代わって紹介したガーラを、戸惑うように少年―――イファンが見上げる。
ガーラの視線は揺るがず、ルミネを見ている。
ルミネもまた、微笑みを湛えたまま応じた。
「可愛いリーダーさんね」
「だろ? やんないよ」
「えっ!」
素っ頓狂な声を上げるイファンに、ガーラもルミネも目を丸くする。
「何だよ。やらないって言ったぞ?」
「いやその……っていうか何です、やるだのやらないだの、人をモノ扱いして……」
憮然とする少年に、ガーラは笑った。
「そう怒るなって。……じゃ、俺たちはこれで」
ルミネに片手を挙げるガーラに、彼女も軽く応じた。
「ええー。また会いましょうね」
「ああ。また」
生きていたら、どこかで。
そんな言葉を含んで残し、ガーラはイファンを―――慌てていたが丁寧にも、ルミネに一礼をしていってくれた―――連れだって店を出ていった。
彼らの背を見送りつつ、ルミネはカウンターに乗り出すようにして独りごつ。
「あーあ。当てられちゃったわー」
「何か言ったか?」
忙しく動き回る亭主が聞き返してくるが、何でもない、とルミネはかぶりを振る。
「そうねー、あんな可愛い子がいるなら、私もギルドに入っちゃうわねー」
「?」
不思議そうな亭主をよそに、ルミネは鈴の音のように笑った。
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